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戸張 弧雁

戸張孤雁は、明治末期から大正にかけて、彫刻と版画の両分野で日本の近代美術に革命をもたらした先駆者です。
孤雁の画業における最大の特徴は、「彫刻家としての視点」が貫かれた、肉感的で力強い造形美にあります。渡米・渡欧を経てロダンの芸術に深い衝撃を受けた彼は、帰国後、それまでの平面的で様式化された浮世絵の伝統とは一線を画す、ボリュームと生命力に溢れた作品を発表しました。彼の彫り跡は、単に線をなぞるためのものではなく、版木を「彫り刻む」という肉体的な行為そのものであり、画面からは対象の呼吸や体温までもが伝わってきます。
特に、彼の描く女性像や風俗画は、大正浪漫の抒情性を湛えつつも、どこか骨太で実存的な重みを備えています。代表作である「千住の大橋」や美人画の数々は、都会の喧騒や孤独を、深い精神性とモダニズムの感覚で切り取ったものです。

彼は、芸術が特権的な個人のものではなく、時代の空気や民衆の息遣いと共にあるべきだと考えていました。44歳という若さで世を去りましたが、戸張孤雁が版木に刻み込んだ「生命の躍動」は、近代日本の版画が工芸を脱し、純粋芸術へと飛躍するための最も力強い踏切板となったのです。
戸張 弧雁